2025年3月5日更新しました!
相続が起きた場合の「小規模宅地等の特例」の適用方法を前もって検討しておくことは、 相続対策として大切な項目です。
土地の評価額の80%または50%減額という 相続税の減税効果大の特例ですから、対策をたてずに あるいは対策を間違えてこの特例をうまく活かすことができなかった!ということがないようにしたいものです。
「小規模宅地等の特例」には、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等の特例がありますが、
その中で、一番多くの方に関係があるのが、被相続人の自宅の敷地に関する「特定居住用宅地等の特例」だと思われます。
特定居住用宅地等の場合の減額割合は、
330㎡までの部分が8割減 というものです。
例えば330㎡で評価額1億円の土地を2000万円の評価額にして相続税を計算できるというものです。
ここでは、「小規模宅地等の特例」のうち、「特定居住用宅地等の特例」を中心に、
将来相続が起きた時、この特例を活かすために今のうちにできる生前対策を説明したいと思います。
1.親と同居する
2.生前贈与するとき特例最適地を避ける
3.持ち家か賃貸か
4.二世帯住宅 区分所有登記の解消
5.老人ホームへの入所で空き家となっていた場合
6.実家の売却のタイミング
1.親と同居する
父所有の土地建物に父と母が住んでいて、自分は別のところに住んでいる という場合。
将来 父の相続が起きた時に、実家の土地を母が相続すれば「特定居住用宅地等の特例」が使えますが、自分が相続したとすると、この特例は使えません。
別居の親族がこの特例を適用できる要件のひとつに「被相続人に配偶者がいないこと」というのがありますので、このケースでは適用不可になります。
自分が相続してこの特例を適用するには、今のうちに親と同居する という方法があります。
被相続人(父)と同居していた親族が相続した場合は、相続税の申告期限までその土地を処分せず、引き続き住んでいればこの特例が適用できます。
将来の遺産分割を想定した場合に、上記のような状況(別居しているが、実家の土地を相続したい)がある場合、他の事情が許せば、今のうちに同居することも検討してみましょう。
同居をすることによって「特定事業用宅地等の特例」が使えるようになるケースもあります。
別居で生計を別にしている子が、親所有の土地建物を借りて何か事業を行っているという場合。
親に家賃を支払わない例も多いと思いますが、そのままだとその土地は、「小規模宅地等の特例」は使えません。
もしその子が親と同居して生計を一にすれば、その土地は、「生計を一にする親族の事業用宅地等」ということになり、
「特定事業用宅地等」として400㎡までの部分が80%減額できます。
同居は無理でも、親に家賃を支払うことにすれば、その土地は「貸付事業用宅地等」として200㎡までの部分が50%減額の対象になり得ますが、 家賃収入の分が、親の財産として増えてしまいますから、その影響による将来の相続税負担と「貸付事業用宅地等」の減税効果とのバランスに注意が必要です。
2.生前贈与では特例最適地を避ける
「小規模宅地等の特例」は、相続税の評価の特例ですから、土地を生前贈与するときの贈与税の評価については使えません。
また、「相続又は遺贈により取得した宅地等」が対象ですので、相続時精算課税の適用を受けて、贈与により取得した土地について、相続税の計算に算入する際についても「小規模宅地等の特例」は使えません。
将来の相続財産の中に、「小規模宅地等の特例」が使えそうな土地がいくつかある場合、どの土地で適用するかは相続人の自由です。
面積制限がありますから、どの土地で適用すれば一番有利になるか検討しておいて、土地を生前贈与するときには、将来「小規模宅地等の特例」を適用する予定の土地は避けて、相続の時にこの特例が使えるようにしましょう。
3.持ち家か賃貸か
父親が亡くなって、実家には母一人で住んでいるという場合。
実家の土地建物は、父からの相続で母親の所有になっているとします。
子は結婚を機に家を出て、近所の賃貸マンションに住んでいて、そろそろ持ち家の購入を検討しているとします。
今この状態で、もし母親の相続が発生して、実家の土地建物を子が相続した場合。
申告期限までに実家を売却したりしなければ、「特定居住用宅地等の特例」を適用して、330㎡までの部分が80%減額できます。
仮に持ち家を建てた後に、母親の相続が発生したとすると、この特例は使えません。
このケースで、別居の子どもが相続した実家の敷地について、小規模宅地等の特例が適用されるためには、いくつか要件があります。
その要件のひとつに「相続開始前3年以内に、宅地の取得者が所有する家屋に居住したことがないこと」というのがあります。
実家の敷地を相続した子どもが、持ち家に住んでいる場合は適用不可ということです。
宅地の取得者には、本人だけでなく、配偶者や三親等内の親族なども含まれます。
つまり、実家の敷地を相続した子ども本人が所有する家に住んでいる場合だけでなく、
配偶者や三親等内の親族が所有する家に住んでいても適用不可 というわけです。
「賃貸のままか持ち家を建てるか」 「 建てるのが相続より前か後か」で、将来の相続税が大きく変わる可能性があるということですね。
4.二世帯住宅 区分所有登記の解消
特定居住用宅地等に該当する要件のひとつに、「被相続人と同居していた親族が取得した場合」というのがあります。
亡くなった方所有の宅地を相続したのが同居していた親族の場合、「申告期限までその宅地を所有して引き続き居住している」という要件を満たせば、この特例が適用できる というものです。
では、二世帯住宅の場合は、同居といえるのでしょうか?
父親所有の土地の上に二世帯住宅を建てて、1階部分は親世帯、2階部分は子世帯が住んでいたとします。
この二世帯住宅につき、区分所有登記がされているかどうかで、「小規模宅地等の特例」の適用可否が違ってきます。
区分所有登記とは、二つの世帯それぞれが住んでいる部分を 区分所有建物としてそれぞれが所有する登記です。
区分所有建物とは、分譲マンションのような1棟の建物の中の各部屋のように、個別に所有権の対象になっているものをいいます。
戸建ての二世帯住宅であっても、その構造上 独立した専有部分のある建物であれば、区分所有建物として1階部分は父親、2階部分は長男 というようにそれぞれが所有する登記が可能です。
毎年 市区町村から送られてくる固定資産税納税通知書が所有者ごとに別々に2通送られてくる場合は、区分所有建物としての登記がされているはずです。
区分所有登記ではなく共有登記の場合には、共有者のうちの一人に「〇〇様 他1名」というような宛名で、1通だけ送られてきます。
この区分所有登記がされていなければ、親世帯と子世帯は「同居」とみなされます。
つまり、敷地の所有者である父親の相続が起きた時に、二世帯住宅の2階に住んでいた子がその敷地を相続した場合には、
「被相続人と同居していた親族」として敷地全体が「特定居住用宅地等」として
小規模宅地等の特例が適用できる ということです。
ですが、この二世帯住宅が区分所有登記されていた場合には「別居」の扱いになりますから、その場合は、2階に居住していた生計別の子が敷地を相続しても、小規模宅地等の特例は適用できません。
この二世帯住宅の敷地には、被相続人(親世帯)の居住用部分と子世帯の居住用部分があります。
生計別の子世帯の居住用部分の敷地は、そもそも「小規模宅地等の特例」の対象となる「被相続人等の居住用宅地」ではありません。
被相続人(親世帯)の居住用部分の敷地についても、別居の子が相続した場合の適用要件の一つに「その別居の子が持ち家に住んでいないこと」というのがあります。
2階に居住していた子は自分が所有する家に住んでいますから、適用できません。
結果、区分所有登記されていた場合に、2階に居住していた生計別の子が敷地を相続した場合、敷地全体が適用外になってしまう ということです。
(母親つまり被相続人の配偶者が敷地を相続した場合には、敷地の一部につき この特例が使えます。)
「小規模宅地等の特例」を適用するために、区分所有登記を解消し、共有登記へ変更しておくことは可能です。
1階部分を父親、2階部分を息子が区分所有している建物の場合、1階2階それぞれの持分の一部を交換して、1階2階の持分割合が同じ共有状態にした上で合併登記をすれば、「1戸の建物」として共有となります。
司法書士、土地家屋調査士への依頼が必要になるでしょう。
相続開始直前に共有登記に変更した場合、相続税回避のために行われた行為として、税務署から否認される可能性もゼロではないと思います。
もしも、区分所有登記を共有登記に変更して、小規模宅地等の特例を適用したい という事例に該当される場合には、相続開始直前ではなく、早めの対応が望ましいと思います。
5.老人ホームへの入所で空き家となっていた場合
「特定居住用宅地等」というのは、相続開始直前において、「被相続人の居住用の宅地」 というのが大前提です。
生前に老人ホーム等に入所して、自宅に戻ることなく亡くなった場合、その自宅の敷地は、「相続開始直前において被相続人の居住用の宅地」だったと言えるのでしょうか?
そのような場合でも、次の要件を満たせば、「被相続人の居住用の宅地」として扱われることになっています。
・被相続人が「要介護認定」か「要支援認定」を受けていたこと
・老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入所していたこと
・老人ホーム等入所後に、自宅を貸付けなどの事業用に使っていないこと
・老人ホーム等入所後に、自宅を被相続人と生計を一にしていた親族以外の人の居住用としないこと
つまり、要介護か要支援の認定を受けていて、特養などの老人福祉法等に規定する施設に入所されていた場合、
その後、被相続人の自宅を貸付用として使ったり、別居していた親族(生計別)が住んだりしなければ、「被相続人の居住用の宅地」として認められることになっています。
(要介護等の認定は、入所の前に受けていなくても、相続開始直前に受けていればOKです。)
親が老人ホームに入所して実家が空き家になり、貸付用などとして有効に使おうというケースもあるかと思いますが、将来の相続の際に、「小規模宅地等の特例」が使えなくなることに注意が必要です。
上記の4つの要件に該当して「被相続人の居住用の宅地」となったとしても、直ちに「小規模宅地等の特例」が適用できるわけではありません。
別居していた子が「被相続人の居住用の宅地」を相続した場合に「小規模宅地等の特例」を適用するには、「相続開始前3年以内に、自分や配偶者、3親等内の親族が所有している家屋に居住したことがないこと」 などの要件があります。
つまり、賃貸ではなく持ち家に住んでいる子が、親の居住用の宅地を相続しても、この特例は使えませんのでご注意ください。
6.実家の売却のタイミング
一人暮らしをしている親を引き取るとか、老人ホームへの入所とかで、それまで親が住んでいた家が不要になって、売却を考えられる場合もあるでしょう。
自分が相続した後に売却した方がいいのか、親の生前に売却しておいてもらった方がいいのか 迷われることもあるかもしれません。
「小規模宅地等の特例」は、親の居住用の宅地を相続した場合の相続税の計算において、一定の要件を満たせば、その宅地の330㎡までの部分が80%減額できる というものですから、親が生前に売却した場合には適用できません。
生前に売却した場合に使える特例として、「居住用財産の特別控除の特例」「居住用財産の軽減税率の特例」があります。
相続税の話ではなく、売却したときの所得税・住民税の特例です。
特別控除については、所有期間の制限はありませんが、
軽減税率の特例の方は、所有期間10年超の居住用土地建物 という要件があります。
土地や建物を売却して利益が出た場合は、「譲渡所得」として所得税・住民税がかかってきます。
例えば土地建物の売却収入が5000万円、取得費・譲渡費用が800万円だとすると、譲渡所得は4200万円になります。
特例を使わず通常の計算だと、所有期間5年超の長期譲渡の場合の税率は、所得税・住民税で20%ですので、4200万円×20%=840万円の税金になります。
親が自宅を生前に売却して「居住用財産の特別控除の特例」「居住用財産の軽減税率の特例」を使ったとすると
売却収入5000万円-取得費・譲渡費用800万円-特別控除3000万円=譲渡所得1200万円となります。
1200万円×軽減税率14%=168万円の税金になります。
復興特別所得税を省略していますのでざっくりした金額ですが、特例が適用できれば、かなりの節税になることがわかって頂けると思います。
親が亡くなって、別居の子が相続した後だと「居住用財産の特別控除の特例」「軽減税率の特例」は使えませんから、(親の居住用であって、子の居住用ではないから)
相続の時に「小規模宅地等の特例」の要件を満たさず適用できない方の場合だと、
親が生前に売却して「居住用財産の特別控除の特例」「軽減税率の特例」を適用できた方が、税金面ではお得 ということになるでしょう。
( 後述しますが、相続した後 売却した場合に、空き家譲渡の特例が適用できるケースがあります。その場合は、生前売却の方がお得とは限りませんのでご留意ください。)
「小規模宅地等の特例」の要件に合致している人の場合だと、親の生前には自宅土地建物を売却せず、相続の時に「小規模宅地等の特例」を適用して宅地につき80%減額して相続税を計算する という方が有利になることも多いと思います。
別居の子が相続した後、その土地建物を売却した際(相続税の申告期限までに売却してしまうと、「小規模宅地等の特例」が適用できませんので、ご注意ください。)には、「生前は親の居住用だった」のであって、自分の居住用ではないわけですから、「居住用財産の特別控除の特例」や「居住用財産の軽減税率の特例」は使えません。
通常の譲渡所得の計算をして、所得税・住民税がかかってくることになります。
実家の土地建物を自分が相続した後に売却した方がいいのか、親の生前に売却しておいてもらった方がいいのか迷われている方で、「小規模宅地等の特例」の要件に合致している方については、自分のケースの場合、下記の①②のどちらの方が有利になるか確認しておかれるとよいと思います。
① 親が自宅を生前に売却して、譲渡所得につき「居住用財産の特別控除の特例」や「軽減税率の特例」を適用する。(所得税・住民税)
その後の相続の時には自宅は売却済であるから当然「小規模宅地等の特例」は使えない。(相続税)
② 生前に自宅を売却せず、相続の際に「小規模宅地等の特例」を適用する。(相続税)
その後、相続人が親の自宅だった土地建物を売却して、譲渡所得の申告をする際には、「居住用財産の特別控除の特例」や「軽減税率の特例」は使えない。(所得税・住民税)
上記で①の方が有利となり、親の生前に売却した方がよいと判断された場合、念のため「空き家譲渡の特例」についても検討してみてください。
要件が厳しいので、適用できるケースは限られますが、もしも適用できるのであれば、生前売却せずにそのまま相続して、相続税では「小規模宅地等の特例」を適用した上で、その後の売却時には「空き家譲渡の特例」を適用されるのがよいでしょう。
(相続税の申告期限までに売却してしまうと「小規模宅地等の特例」を適用できなくなるのでご注意を!)
②の方が有利で、相続した後の売却を考えておられる方ももちろん、「空き家譲渡の特例」の要件に該当されるのであれば、「小規模宅地等の特例」を適用した上で、売却時には「空き家譲渡の特例」を適用できます。
空き家譲渡の特例とは
相続した家屋・敷地を売った場合に、譲渡所得の3000万円特別控除が適用される というものです。
今のところ令和9年12月31日までの時限措置です。
主な適用要件は、
・被相続人が、単独で居住し、亡くなった後に空き家となっていること。
・区分所有建物登記がされている建物ではないこと。
・昭和56年5月31日以前の旧耐震基準の建物で、それを取り壊して更地にするか、耐震リフォームを行った後に売却すること。(売却後の取壊しや耐震リフォームの場合でも、適用できるケースがあります)
・相続した時から売却するまで、事業用・貸付用・居住用に使われていないこと。
・相続後3年経過した年の12月31日までに売却すること。
・売却代金は1億円以下であること。
ここで出てきた「居住用財産の特別控除の特例」「軽減税率の特例」「空き家譲渡の特例」について、
もう少し詳しく という方はこちら↓↓
7.まとめ
将来の相続のときに「小規模宅地等の特例」を活用するために今できること!
というテーマで、
「親と同居する」
「生前贈与するとき特例最適地を避ける」
「持ち家か賃貸か」
「二世帯住宅 区分所有登記の解消」
「老人ホームへの入所で空き家となっていた場合」
「実家の売却のタイミング」
について、説明させて頂きました。
将来の相続税負担がある程度見込まれる方にとっては、「小規模宅地等の特例」を適用できるか否かは、大きな関心事かと思われます。
ご自分のケースに当てはまる内容の記載があり、参考にして頂けたなら幸いです。(^^)/
8.追記
※当ブログの記事は、投稿日現在の法律に基づいて書いております。
わかりやすくするため詳細を省いていたり、改正や個別的なケースには対応していない場合もありますので、
ご注意ください。
